はじめに
商用 5G サービスは、もはや夢のようなものではありません。インテルは、世界中の通信サービス・プロバイダー (CommSP) と協力して、データセントリックのサービスの基盤を築きましたが、これは新しい時代によってもたらされる可能性のほんの一部にしかすぎません。
5G の可能性と計算集約型 AI アプリケーションの台頭により、データセンターとクラウドからネットワーク・コアとエッジへのネットワークの変換が加速され、帯域幅、レイテンシー、エンドツーエンドのサービス品質 (QoS) が大幅に向上し、プライベート・ワイヤレス・ネットワークが急増しました。
IT 関連のトップニュースは、IaaS (Infrastructure as a Service) や PaaS (Platform as a Service) モデルから SaaS (Software as a service) や FaaS (Function-as-a-Service) モデルへと進化したクラウドの変革が独占しました。今後 10 年間でエッジ・コンピューティングは同様の注目を集めるでしょう。最適な場所を活用して迅速な意思決定を必要とする新しいクラスのアプリケーションにとって、データを移動、保存、処理するリソースをデータソースやサービスの提供ポイントの近くに配置することは重要です。エッジ・コンピューティングは、クラウド・コンピューティングを進化および拡張して、既存のアーキテクチャーを変換し、アプリケーション、サービス、およびビジネスモデルの革新に適した環境を形成します。
エッジは、体験の向上、総所有コストの改善、セキュリティーとデータ主権要件の順守、タイムリーで実用的な情報の提供などの重要業績評価指標 (KPI) をサポートするため、分散型でヘテロジニアスな検出、展開、協調を必要とします。インテルは、エッジ・コンピューティングの可能性は、コンピューティングとサービス提供の未来を示していると考えています。それを支援するためのインテルの取り組みについて見てみましょう。
ネットワーク機能の仮想化 + クラウド: インテリジェント・エッジの基本
ネットワーク・インフラストラクチャーとアプリケーションの仮想化におけるインテルのリーダシップは、興味深い可能性を開きます。ネットワーク・クラウド・アーキテクチャー全体の基盤としてのネットワーク機能の仮想化 (NFV) により、エンタープライズ・サイトの無線アクセス・ネットワーク (RAN)、次世代セントラル・オフィス (NGCO)、およびユニバーサル顧客構内設備 (uCPE) は、新しいエッジサービスをサポートし、インフラストラクチャーへの投資をより完全に収益化するのに理想的な場所です。
上の図は、レイテンシーなど、さまざまなレベルの KPI をそれぞれのエッジの場所がどのようにサポートするかを示しています。ポールに取り付けられたビデオ監視アプリケーション、無線塔に配備されたサーバー、オンプレミスのエンタープライズ・データセンター、NGCO のサーバーラックなど、場所とユースケースごとにパフォーマンス、フォームファクター、電力、および熱要件は異なります。パートナーのエコシステムとともに、インテルはこれらのプラットフォームの違いをサービスから切り離し、CommSP がサービスを自由に移動してさまざまな KPI をサポートできるようにしました。
エッジの重要業績評価指標: 場所が重要
エッジの提供価値を評価する KPI は 3 つあります。
レイテンシーと決定性 - コンテンツ配信、ロボットによるファクトリー・オートメーション、産業用制御システム、ビデオ監視とセキュリティー、没入型メディア・アプリケーション、自動運転車などの高度なアプリケーションの基本的な価値は、レイテンシーと決定性により評価されます。これらのプリケーションは、20ms 未満のエンドツーエンドのレイテンシーと決定性のある応答を要求します。ハイパースケール・クラウドでは、この要件を満たすことができません。
帯域幅 - 2022 年までに IP トラフィックの 82% はビデオコンテンツになります (英語)。このトラフィックをクラウドに転送して、ハイパースケール・クラウド・データセンターで処理すると時間がかかります。そのため、CommSP は、エッジでビデオデータを処理してジッターを軽減し、ビデオ品質を向上して、コンテンツ配信ネットワーク (CDN)、クラウドゲーム、小売体験を強化するビデオ解析などの付加価値サービスによって新しい収益を生み出そうとしています。
データの局所性と規制順守 - 一般データ保護規制 (GDPR) など、顧客データを保護し地域外へのデータ流出を防止する政策の実施により、データのプライバシーとセキュリティーがエッジ展開の普及を推進しています。
これらの KPI は、インテル® アーキテクチャーへの投資、オープンソースの革新、およびエコシステムの成熟の原動力となっています。 インテルのサービス品質に対する包括的なコミットメントは、プラットフォーム・コンポーネントのパフォーマンスを細かく制御して、さまざまなワークロードで必要とされるこれらの KPI 間の適切なバランスを提供することに重点を置いています。
インフラストラクチャー、アプリケーション、およびエコシステム向けに最適化されたハードウェアとソフトウェアによりエッジ KPI をサポート
インテルは、ネットワークの任意の場所で NFV と仮想ネットワーク・アプリケーションをサポートする多くのオプションを提供しています。共通のアーキテクチャーで標準化すると、さまざまなアプリケーションにソフトウェアを簡単に移行して再利用できるため、ソフトウェアの実装が簡素化されます。これは、多くの 5G 展開と試用にインテル® Xeon® プロセッサー・ベースのプラットフォームが採用されている理由の 1 つです。インテルは、エッジ KPI をサポートするさまざまなネットワークの場所向けにシリコンを設計し、ソフトウェアを最適化しています。
イーサネットとセキュリティー IP が統合された Intel Atom® SoC C3000 (英語) は、IoT ゲートウェイ、仮想 CPE (vCPE)、uCPE など、サイズ、電力、コストの制約がある小さなフォームファクター展開に魅力的なオプションを提供します。
開発コード名 Snow Ridge (英語) は、5G ワイヤレスアクセスとエッジ・コンピューティング向けに開発された 10nm テクノロジー・ベースの最新のネットワーク SoC です。
イーサネットとセキュリティー IP が統合され、ハイパフォーマンスなコアを備えたインテル® Xeon® D-1600 SoC 製品ファミリー (英語) とインテル® Xeon® D-2100 SoC 製品ファミリー (英語) は、産業およびファクトリー・オートメーションのユースケースでの NGCO やオンプレミス展開など、高密度フォームファクター要件で優れたスケールアップ・オプションを提供します。
ハイパフォーマンスなコアを備えた第 2 世代インテル® Xeon® スケーラブル・プロセッサーは、5G インフラストラクチャーとハイパフォーマンス・エッジ・アプリケーション向けにネットワークが最適化された NFV サーバーとして配備され、優れたパフォーマンス、QoS、およびセキュリティーを提供します。SKU に「Network」または「N」が付くインテル® Xeon® スケーラブル・プロセッサーはネットワーク向けに設計されています。これらは、第 1 世代インテル® Xeon® スケーラブル・プロセッサーと比較して、最も一般的に展開されている仮想ネットワーク機能のパフォーマンスを最大 50% 向上 (英語) するようにチューニングされています1。
SKU に「N」が付くインテル® Xeon® スケーラブル・プロセッサーは、ネットワークおよびエッジ・ワークロード固有の特性向けに最適化されています。また、次のハードウェアとソフトウェアの拡張を備えています。
インテル® スピード・セレクト・テクノロジー (インテル® SST) は、クリティカルなコアでベース周波数を上げてボトルネックを排除することで、ネットワーク・ワークロードのパフォーマンス全体を向上します。
インテル® Optane™ DC パーシステント・メモリーは、パーシステント・メモリー (英語) を必要とする新しいユースケースをサポートし、コスト/パフォーマンス密度を最大 33% 向上します1。
インテル® RDT は、キャッシュやメモリーなどのプラットフォーム・リソースを細かく制御して、NFV の「ノイズ」を回避し、リアルタイム・エッジ・アプリケーションに QoS を提供します。
クラウド・ネイティブ・アプリケーション向けにデバイス抽象化が改善された Data Plane Development Kit (DPDK) などの最適化されたデータ・プレーン・ソフトウェアは、向上したネットワーク・パフォーマンスを利用します。
インテル® ディープラーニング・ブースト (インテル® DL ブースト) のベクトル・ニューラル・ネットワーク命令 (VNNI) は、コンテンツ配信ネットワーク (CDN)、ビデオ解析、およびその他のビジュアル・クラウド・ワークロードで、エッジでのハイパフォーマンスな人工知能 (AI) 推論をサポートします。
インテル® イーサネット 800 シリーズは、アプリケーション・デバイス・キュー (ADQ)、拡張版ダイナミック・デバイス・パーソナライゼーション (DDP)、および QoS スケジューラーを備えており、エッジでのより効率的なデータ・トラフィック・フローをサポートします。
インテル® クイック・アシスト・テクノロジーは、暗号化、圧縮、および公開鍵 (PKE) を高速化します。インテル® トラステッド・エグゼキューション・テクノロジー (TXT) と組み合わせることで、ネットワークを介したデータ (使用中のデータ、プラットフォームに保存されているデータ、および移動中のデータ) のエンドツーエンドのセキュリティーを保証できます。
しかし、シリコンを最適化するだけでは、すぐに展開できる完全なソリューションを提供できません。業界の課題と顧客のニーズを解決する革新的なソリューションを作成するには、テクノロジーとパートナーを迅速に連携させることができるビレッジまたはエコシステムが必要です。インテル® Network Builders (英語) エコシステムは、商用化されたマルチベンダー・ネットワーク変換ソリューションを提供します。インテル® Select ソリューションは、NFV インフラストラクチャー、uCPE、ビジュアルクラウド配信ネットワーク、そしてメディア解析に関連する特定の顧客ワークロードの需要をターゲットとするパートナーと連携して、実証済みの信頼できるインフラストラクチャー構成を提供します。インテル® FlexRAN も、ネットワーク・エッジでのマルチベンダー変換プロジェクトをサポートするため利用されているリファレンス・アーキテクチャーです。GSMA 主導の Common NFVi Telco Taskforce (CNTT)、OPNFV Verification Program (OVP)、Scalable Video Technology AOMedia Video 1 (SVT-AV1)、DPDK などの業界による取り組みは、エッジ・コンピューティングと 5G に関連した IT と運用の膨大な課題に対応する上で不可欠です。
OpenNESS、Open Visual Cloud、OpenVINO™ ツールキットによりエッジを容易に
インテルは長年にわたって、Data Plane Development Kit (DPDK)、FD.io、OPNFV、OVS-DPDK、Tungsten Fabric、Openstack、Kubernetes、ONAP などのオープン・ソフトウェア・イニシアチブを主導し、投資してきました。最近では、クラウド・ネイティブ・ネットワーク・アプリケーション向けの協調した取り組みとして、ソフトウェアの分離とハードウェアの抽象化を推進してきました。現在、パケット処理用のハイパフォーマンスな Linux* カーネルスタックである AF-XDP (eXpress Data Path) を利用して、Linux* カーネルに DPDK 形式の最適化を組込む作業を進めています。これらの拡張は、エッジ・アプリケーションのレイテンシー、スループット、および QoS を向上します。
エッジを革新の新たな分野とするため、開発者エコシステムと新世代のクラウド開発者にツール、フレームワーク、ライブラリーを提供することに注力する必要があります。これを念頭に、インテルは最近サービスの開発と展開に注目したイニシアチブ、OpenNESS、Open Visual Cloud、および OpenVINO™ ツールキットを発表しました。
OpenNESS (英語)
クラウド、ネットワーク、オンプレミス、エンタープライズ・エッジにわたるアプリケーションの革新、オープン・コラボレーション、移植性を促進するために設計されたオープンソース・リファレンス・ツールキット。OpenNESS により、クラウドおよび IoT 開発者は、世界中のハードウェア、ソフトウェア、およびソリューション・インテグレーターで構成されるエコシステムと連携して、新しい 5G とエッジのユースケースとサービスを容易に開発できます。OpenNESS は、オンプレミスおよびネットワーク・エッジ環境で新しいエッジサービスの安全な運用および管理を支援します。
Open Visual Cloud (英語)
さまざまなビジュアル・クラウド・ユースケース向けに事前定義リファレンス・パイプラインのセットを提供するオープンソース・プロジェクト。これらのリファレンス・パイプラインは、ビジュアル・クラウド・サービスの提供に使用される 4 つの基本ブロック (エンコード、デコード、推論、レンダリング) にわたって最適化されています。
OpenVINO™ ツールキット (英語)
OpenVINO は、Open Visual Inference and Neural Network Optimization の略称です。開発者にさまざまなインテル® プロセッサー上で優れたニューラル・ネットワーク・パフォーマンスを提供し、費用対効果の高いリアルタイムのビジョン・アプリケーション開発を支援します。ディープラーニングの推論と、複数のインテル® プラットフォーム (CPU、インテル® プロセッサー・グラフィックス) での容易なヘテロジニアス実行を可能にし、クラウド・アーキテクチャー全体の実装をエッジデバイスに提供します。OpenVINO™ ツールキットは、開発者コミュニティーに比類ない柔軟性と可用性を提供し、ディープラーニングおよび AI ソリューションを革新します。 OpenVINO™ ツールキットでは、すぐに使用できる広範なディープラーニング・モデルが用意されています。40 個のパブリックモデルと約 40 個のインテルによるトレーニング済みモデルがインテル® Model Zoo で公開されています。
OpenNESS、Open Visual Cloud、および OpenVINO™ ツールキットの組み合わせは、新しいエッジ・アプリケーションを容易に開発、展開、そして管理するための強力な基盤です。これらのツールをダウンロードして使用し、ご意見をお寄せください。
エッジ革命の今後について
次の 10 年間で、エッジは革新の中心となり、新しいエコシステムとアプリケーションが構築され、以前は想像もできなかった方法でさまざまな業界を大きく変革するでしょう。エッジは素晴らしい可能性を備えており、さまざまな用途をサポートし、総所有コストを軽減し、新時代のサービスの KPI をサポートするように進化すると考えられます。エッジを (サポートする特性を利用して) 検出可能にし、(意思決定の観点から) 分散させ、(モビリティーの考慮事項をサポートするため) 協調させることができます。数百万の展開と場所でエッジ・コンピューティングを普及させるためには、ネットワーク、アプリケーション、および顧客要件の先を行く、強固な開発者エコシステム、使いやすいソフトウェア・インフラストラクチャー、および大規模なハードウェア投資にわたるオープン・コラボレーションが必要です。
業界はまた、エッジの検出、分散コンピューティング、ヘテロジニアス・コンピューティング、分散化などの課題に対応する必要があります。インテルは学術機関と協力して、エッジ・コンピューティングの長期的な研究を継続します。また、業界パートナーと連携して、通信、クラウド、IoT および AI テクノロジーを含む革新に取り組み、進化するエッジ・コンピューティングの世界で急速な革新を推進します。